富士フイルムからフルサイズを上回るラージフォーマットセンサーを搭載したGFX100の後継機・GFX100 Ⅱが発表された。かねてからGFXを愛用する映像作家の鈴木佑介さんに発売前の実機を試してもらった。2本のテスト映像を撮り下ろししていただいたなかでの使用感や製品の魅力についてレポートする。

テスト・文●鈴木佑介

 

富士フイルムのラージフォーマットセンサーカメラのフラッグシップ1億画素のセンサーを持つGFX100の2型となるGFX100 Ⅱが発表された。

スタジオポートレート撮影を稀に行う筆者はGFX100Sのユーザーであり、過去にも本誌のタイアップ企画でGFX100での映像制作、フジフイルム公式でのGFX100S + Blackmagic RAWでの作例作りなど、縁が深いカメラで今回のレビューでもお声掛けを頂き、至極光栄である。同時に発表された新レンズGF 55mm F1.7 WRも一緒にお借りできたので
GFXユーザーとして、映像制作者として、様々な視点からレビューをお届けしたい。

 

小型化したGFX100

一番の大きな変化は筐体のサイズだろうか。縦位置グリップを別売りにしたことで小型化された本体はGFX100Sより一回り大きいイチガンという感じだ。デザインはGFX100の流れを引き継ぎスタイリッシュで格好いい。

 

メディアはCF Express Type-BとSDカードのデュアルスロットを採用。近年のフジフイルムのカメラの潮流だ。

 

液晶モニターも軟弱なバリアングルでなく、縦位置撮影にも対応した富士フイルム独自のティルトスタイルなのも好感がもてる。1型と同様、ビューファインダーは取り外しが可能だ。

 

ヘッドホン端子がグリップ側に。マイク端子・フルのHDMI端子・USB-C端子・Ethernet端子が左側側面に搭載されている。

ボディ天面左側にはムービーとスチルの切り替えスイッチ。モードダイヤルが。右側の大きな液晶にはその時の設定が一目でわかるようになっている。これはムービーとスチルを切り替えた時にもきちんと対応している。筆者が気に入っているポイントでもある。

 

電源スイッチ・シャッターボタンの上に3つボタンがあり、それぞれカスタマイズも可能だ。

 

映像撮影機能の進化

映像撮影機能の視点からすると
①「8K/30p・DCI8K/30p」「Cine5.8K」「4K/60p」「1080/120p」がProRes 422HQ(10bit)の内部収録が可能
②USB-C接続で外部SSDへの収録が可能となったこと
③オートフォーカス・手ブレ補正の性能向上
④ウェーブフォーム・RGBパレード・ベクトルスコープの表示が可能
⑤ProRes RAW・Blackmagic RAW外部収録が可能(フルのHDMIポートも搭載)
この5つが特筆すべきことであろうか。

 

 

▲8Kは1.51倍、DCI 8Kは1.41倍のクロップになる。5.8K、4Kはクロップなし。

残念に感じるか、良さと感じるかは使う人次第だが、8K撮影時は約1.5倍のクロップになる。広いロケーションならばあまり困らないが、狭い日本の室内においてはディスアドバンテージかもしれない。

 

今回地味に感動したのが、ウェーブフォーム類の表示が可能になったことだ。「スチルカメラ」の形をしているものでヒストグラム表示以外ができる機種が少ないのは読者の皆様もよくご存知だろう。これで本体内だけでもLog収録がしやすくなった。全メーカー見習ってもらいたい。

 

そのほかにもXLRアダプターへの対応、外部機器を使ってのタイムコード同期など、富士フイルムの「映像撮影への本気さ」を感じる。我々のニーズや他者のカメラの良いところを汲み取って、新機種に導入する姿勢には敬意を示したい。ちなみに動画撮影でのセルフタイマー設定もできる。

 

▲録画時の液晶赤枠表示も可能

 

GFX100 IIで撮影した2本のテスト映像

さて、いよいよ本題だ。返す返す言うが、筆者にとって「富士は別腹」である。毎度、多少の不便さを抜きにして「出てくる画が良い」ことが富士の魅力であり、ある程度キャリアを積んだ自分への刺激だったりする。今回は「ラージフォーマットでの8K映像」そして「4K/60p」に着目し、テスト映像を2本制作してみた。

テストの条件はいつも通り「自然光」で「人物」を「手持ち」で撮影だ。そんなわけで筆者おなじみの遥野氏を召喚。夕方から夜、そして明け方とでシチュエーションと設定を変えて撮影を行なった。手持ちでカメラを操ることで手ブレ補正の効き具合、ローリングシャッターの歪み具合が分かり、自然光での逆光、半逆光環境で撮ることでダイナミックレンジの加減も分かるからだ。夕方から夜での撮影も行うことで暗所性能も感じることができる。

 

ひとつは4K/60p・1080/120pで撮影した『杪夏』だ(4K映像として仕上げ)。こちらは夕方から夜にかけて追加された新フィルムシミュレーション「REALA ACE」とレンズはGF 55mm F1.7WR 一本で浴衣姿の遥野さんを撮影した(55mm→フルサイズ換算でおよそ45mm。中判のレンズは約0.8倍でフルサイズ換算となる)。こちらは基本カラコレなしだが、HDからのスケール(解像度)アップとノイズリダクションはかけている。

▲GFX100 IIから新たに加わったフィルムシミュレーション「REALA ACE」

 

もうひとつは8K/30pで撮影した『夏暁』。レンズはGF55mmの他にGF 23mm/ 80mm/110mmなどを加え
こちらはF-Log2で撮影→シンプルなカラーグレーディングを行なった(8K映像として仕上げ)。

 

REALA ACEは「とても写真的」

『杪夏』で使った新フィルムシミュレーションの「REALA ACE」の印象は「とても写真的」な感触だ。純粋に綺麗で、コントラストと発色は高め。刻一刻と光が変わっていく日暮の中でさまざまな表情の画を描いてくれた。ただ映像的には新鮮に見えるが少し「生っぽい」という印象を受けた。私的な意見だがやはり映像は「ETERNA」が落ち着く。「写真が動く」という感じの表現をしたいのであれば良いフィルムシミュレーションであろう。この辺りはさすが「色のフジ」だ。また、冒頭の遥野さんが歩いてくるカットは手持ちで引っ張っていてスタビライザーはかけていない。手ブレ補正が優秀な実感を受けた。

 

 

暗所性能で言うと、花火のシーンではISO1600-3200あたりまで使用した。下の写真はノイズリダクションなしの状態だが、少々ノイズ感を感じたのでノイズリダクションをかけた。

▲ノイズリダクションをかけた

 

1080/120pのハイスピード素材はDaVinci Resolveの「Super Scale」を使って4K素材と馴染ませ、ノイズリダクションをかけて合わせて使用してみた。案外違和感がなく作ることができた。

 

全体的な印象としてはGFX100Sで感じたことのある「ラージフォーマット」であるが故のローリングシャッターが少ない印象だったこと。GFX100 Ⅱは4K/60pが普通に撮れる「ラージフォーマットのカメラ」に進化したことを感じた。

 

ラージフォーマットの8K映像の立体感は上品

さて、注目は『夏暁』のほうだ。記憶にある方もいらっしゃるかもしれないが、ちょうど去年の今頃、筆者はX-H2での8K映像に着目した。8Kが身近になったひとつのきっかけでもあったが、Super35mmセンサーとはいえ、4000万画素の高解像センサー故のローリングシャッターによる像の歪み問題があり、昨年末に撮り下ろした作例では全編FIXで撮影を行なったくらいだ。あれから1年、1億画素のGFXでそのあたりの問題は緩和されたのか、進化と真価が問われる。

全体の所感として、「ラージフォーマットの8K映像の立体感は上品」というのが挙げられる。フルサイズよりボケやすく、ボケの表現の取り扱いが難しそうなラージフォーマットだが、GFX100 Ⅱにおけるボケの表現はまるでSuper35mmセンサーで単焦点レンズを扱っているような延長線上にある。分かりやすく言うとフルサイズでの開放ほど「開放で撮りました感」が少なく感じるのだ。

これは使った人にしか分からない感覚かもしれないが、要するに「いやらしくない」のだ。純粋に被写体がグっと立体的に見える、という。不思議な感じがラージフォーマットでの映像撮影において感じることが多い。これは1型やGFX100Sでも同じことだ。GFX現象と名付けたいくらいである。この立体感がクセになるのだ。

さて、議題としてる「ローリングシャッター」問題だが、結論から言うと「緩和されているが、出る」というところだ。割と意地悪なテストだが、中望遠(換算85mm程度)のレンズを使用して手持ちで遥野さんを追ってみた。

実際の映像でいうと39秒~43秒あたりなのだが、独特の歪みが生じる。他にもいくつか近しい状態は確認できるがX-H2などと比べると大分進化している。決して「映像に特化」したカメラでないはずなのにここまでチューンナップしてきたことに富士フイルムの本気さを感じる。いっそのこと、全力で協力するのでラージフォーマットの「箱型シネマカメラ」を作って欲しいと改めて思った次第だ。

 

F-Log2のベース感度がチューンナップされ、ISO800スタートなった。X-H2やGFX100SがISO1250だったのでさらなる最適化がされた印象だ。13stopを収めることができる(ことになっている)F-Log2だが、前述のRGBパレード表示やログガンマアシスト機能のおかげで、データを収めて収録、カラー作業しやすい素材を収録することができた。

 

気になるオートフォーカスの性能は?

オートフォーカスについて言及しておくと、GFX100Sと比較して抜群に精度が上がっているのは間違いない。今回トラッキング機能が追加され、AF ONボタンを押した後、画面に表示される緑の枠が表示されたらトラッキング対象を選択することでフレーム内の被写体をトラッキングすることができるようになった。
これは発売前のファームウェアのものだからか、分からないが、画面センターに被写体を置いた状態でもたまに外れてしまうことがある。あくまで目安として使用してマニュアルフォーカスを使用する方が間違いないのは変わらない。「オートフォーカスのあり方」がフジの場合は映像制作向きでは無い感じがしているので今一度改めてソニーを含む他社メーカーのものをもう少し咀嚼して取り込んでもらえたら、ぐっと魅力的になる気がしている。

 

▲AFトラッキング機能の設定

 

誰がためのGFX100 Ⅱ

GFX含め、富士フイルムのカメラを誰向けか? と定義する際に難しいのは「映像だけをやりたい人向け」ではないことだ。富士のカメラはやはり「写真ありき」であって、かくいう筆者も「写真は富士」と言う理由でスチルメインで使用している側面がある。

映像機能が毎年充実してきてはいるのだが、筆者が日常使用しているカメラとは一線を画すのは正直な所だ。包み隠さず言うと「業務用途での信頼性と安全性、そして再現性に欠ける」ということ。趣味やあくまで個人の表現、個人媒体で完結する仕事であればどうにでもなるが、規模感が大きくなればなるほど選択肢から遠ざかる存在であることは否めないだろう。ただ、それだけで使わないというのは惜しい、のが富士のカメラである。

カラー迷子が蔓延している昨今では「好きなルックの道標」になるものであるし、昔ほど「写真と映像の垣根が低い」今であるからこそ冒険心がある人には富士フイルムのカメラを、強いていうなら絶対的に使用している人が少ないGFXのようなラージフォーマットのカメラを選択して欲しいとも思う。これから始めようとする人には価格含めハードルが高いと思うが、筆者のようにキャリアを積んで、なにかしら新しい刺激が欲しい人にはピッタリとハマるカメラだったりもする。利便性は他のものと比較しなければ、人はその不便さも愛して、苦難を乗り越えらる術を身につけることができる生き物だと思っている(そこまで不便なカメラではないのだが)。

VIDEO SALONでいうことではないのだが、当たり前のように写真がものすごく綺麗に撮れる。jpeg撮って出しでこの結果である。

 

▲画像をクリックすると原寸大データを表示できます。
▲写真をクリックすると原寸大表示できます。
▲写真をクリックすると原寸大表示できます。

 

 

写真メインで綺麗なイメージ映像を撮らないといけないようなビューティー、ファッション、料理などハイブリッドな現場でカメラを使うインハウス系のフォト・ビデオグラファーを筆頭に。筆者のような少し捻くれた「他の人が使っていないカメラ」を使いたい人にとっては充分なベネフィットを与えてくれるカメラだと思っている。ただGFX100 Ⅱを使っての8Kショートフィルムなどの企画をやってみたいな、という気持ちが生まれたことを最後に記しておく。

 

FUJIFILM GFX100 IIの製品情報

 

GF55mmF1.7 R WRの製品情報